きんようびの夕方。
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不機嫌とか、そんなんではなさそうだ。
でも、いつもと違う何か。
すごい、気になる。
だから意識が途切れて逸れてって、
その度にギロッと睨まれてる、繰り返し。
慌てて手元に視線を落とすけど、
いま俺にとって問題なのは、こんな数式じゃなくて…
目の前の彼の方で。
俺の部屋の中っていう空間にあなたが、
忍足さんが居るという状況だけに
どきどきしなくなったのなんて贅沢だけど、
それもつい最近のこと。
こうやってデキの悪い俺に、
四六時文句を言いながらも、いつも勉強を教えてくれるのだって、
…自惚れた考えを抱いたってしょうがないよね?
眼鏡の奥の切れ長の目が、俯いた姿勢でノートを見つめる。
その先にスラスラ広がってく数字の羅列は、
まるでロジックのようで。
そう、見とれてしまう。
そしたら必ず、「俺やなくて下を見ろ!」ってツッこまれて…
だって忍足さんの方が見てたいんだから俺は、
なんて言ったら、広辞苑で殴られたことも…いや、
今はそれは良い。
何て言うか、
今日の忍足さんは気もそぞろって感じ全開なのだ。
今夜だって、俺は何度も彼の方に視線が泳いでるのに、
一度も怒られてないし…
別にそれを期待してるワケじゃないけど。
でも、気になるよ?
考えてみても、
今日は忍足さんの好きなドラマの日でもない。
意を決して理由を聞こうと身を乗り出した、
そのとき。
「…!」
少しだけ開いてたカーテンのすき間から、
いっしゅん入り込んだ白い光が部屋ん中を照らして、
目の前の彼の肩がそれと同じタイミングで揺れたのは、
たんなる…偶然?
そんなのって。
そういえば今日は、
俺が忍足さんちに来たときから雲行きがあやしくて、
夕方なのに空は真っ暗で…
朝、テレビで夕立があるって言ってたしなぁ、じゃあ今のは…
「稲光り…?凄いひかったから、」
そこまで呟いた時に、
地響きがしてきそうなぐらいのカミナリの音がした。
窓ガラスがカタカタゆって、部屋の電気もちらついて…
でも、
そんな爆音よりも俺は驚いていた。
いつの間にかペンを取り落とした彼の右手が、
机の上でただボンヤリしてた俺の手を、
ぎゅっと掴んでたから。
「…忍足さん?」
呼んでも返事はなく、
俯いた顔から表情は分からない。
ただ、
掴まれた手に力が篭ったのと、
彼の両肩が微かにひくついてるのに、
さすがの俺にもようやく原因を理解した。
でも…
どうしよう、
込み上げるもんが抑え切れない…
ちら、と視線を寄越した忍足さんの眉間には皺が寄っていて、
どうやら俺の顔はかなりにやけてたみたい。
まだ離されない手を良いことに、
囁くように尋ねてみる。
反論されること、覚悟で。
「忍足さん…カミナリ苦手なの?」
すると案の定、がばりと上がった顔はちょっと赤くて。
「あほ、ちが」
そこまで聞いた途端、
一際するどい光が続けざまに点滅して、
ほとんど間をあけないまま、
空が割れるようなカミナリの音が鳴り響いた。
とどめに、さっきはちらついただけの蛍光灯までもが、
ふいに消えてしまった。
あまりに全部が一瞬だったんで、
お互いになんの覚悟もできなくて、
きっと無意識に掴まれた手を、
縋るみたいに伸ばされたって分かったとき、
俺は
忍足さんを抱きしめていた。
立て膝の姿勢だったのもあって、
肩のあたりにきた忍足さんの顔はちょうど視界を覆えてしまえた。
眼鏡がかしゃんと音を起てて、
すくんだ腕を一際引き寄せると彼の手が
自分のシャツの裾を掴んでくるのを感じた。
雷の止んだ空は暗いまんまで、
いやな静けさのあとに雨の音がし始めた。
ぎゅっと抱きしめたら引っ付いた身体からは
常にないぐらいの速い心臓の音がして、
不謹慎ながらも顔が笑ってしまう。
何となくかソレを察したらしき忍足さんは、
視線だけ俺の方を向いて睨んできた。
今度は間違いなく、不機嫌な顔で。
「…ウワだっさーて思てるやろ、お前」
「思わないスよ」
「しゃあないやろが!人間誰やって怖いモンのひとつふたつあるっちゅーねん!」
「…うん」
聞いてないのに正直に言ってしまったらしき呟きが可愛くて、
赤くなった目元にそっとキスを落とした。
一瞬まるくなった瞳は、
今度は不機嫌に歪むこともなく。
「…もう、音止んだみたいやけど」
「雨が止むまで、このままでいいよ」
ようやく普通に戻ってきた心臓の音に気付かないフリをして、
彼をもっと近くに抱き寄せる。
そっと吐いた溜息は、雨の音で聞こえないフリをして。
数学の宿題が出来るのは、向こうの空が晴れてからになりそうだ。
end
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初ダビ忍でしたー!(脱兎)
これでも精一杯あまくしたつもりですが…まだ微温い(真田語録)ですね。
ってか何故天根の一人称にしてしまったのか私…!
むつかしいよ天根の語りは!喋りが分からない!未知数だ!
そんなかんじで(え)今回はセリフ自体は少なめです。
ただ雷に怯える忍足さんと、
そんな彼を可愛いと思う天根が書きたかったんです★(元も子もない)
ウチのダビ忍設定としては、
天根がよく東京の忍足さん宅へ押しかけているという…
むろん、千葉からチャリで★(無理!)
噛み合ってなさそうで実はとてもラブなダビ忍、大好きです(ニコ!)
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