暑かったり寒かったり、
気まぐれな秋の天気に振り回される毎日。

衣替えで早々に袖を通した学ランの黒色は
さんさんと射す太陽の光を思いきり吸収して、地獄のように暑い。

脱ぎ捨ててもまだヒイヒイ言ってるおれと、
紺色のカーディガンにネクタイまでして涼しい顔の彼と。同じ場所にいるのに、何故!


「あー…暑い」

「そないな鼻声でなに言うてんねん」


顰めっ面で飛んだ彼のツッコミのとおり、
油断して真夏のカッコで寝たら一発で風邪を引いた。昼と夜の温度差をナメたせいで。

熱とかはなく、ただの鼻風邪。
いまは自然と暑いから、よけいに鼻が詰まってしまう。


「あー…いきできない…忍足さんたすけて」

「無理」


にべもなく断られるも、最初に大丈夫か、と気遣われたので全然オッケーだ。
おれ的には十分幸せである。


「ーーで、今日はどないすんの」


さらりと尋ねて振り返る彼はとてもきれいで、
まわりの普通の景色さえ、新鮮なものにかえて見せる。

少し見とれてからはっと我に返り、あらかじめ考えておいた予定を思い出す。


「…ケーキを」

「え?」

「ケーキを 食べに行こうかと」


端的に告げれば忍足さんは眼鏡の奥の切れ長な目を丸くし立ち止まった。


「忍足さん誕生日、だし。一日早いけど…明日は、会えないから」


声に出してみて、ちょっと悲しくなる。
本当ならちゃんと当日にお祝いしたい。けれど、おれは明日一日部活があるから無理な話で。

こんなとき、もしおれたちが近くに住んでれば…
何回思ったか分からない理想が、頭を駆け巡る。

ネガティブな考えが顔に出ていたのか、怪訝そうに下から覗き込まれ、
おもむろに頬をギュッと抓られた。


「っいへ!」

「あほ。そないな顔されとっても全然嬉しないわ」

「う…ふいまへん」


素直に謝れば、至近距離にある彼がゆっくりと笑みを浮かべた。


「ほな行こか。おれは、ガトーショコラがええな」


離れた指先が労るように一度、さらりと頬を撫でていく。

…嗚呼、もう贅沢は言わない。
今こうしてこの愛しいひとと一緒にいられる、それだけでおれは幸せだ。

ひんやりした手の温度を思い出してニヤけると、忍足さんも同じようにニヤリとした。


一日フライングで、しかもおれなんかこんな鼻声で。
またひとつ、おれの誕生日がくるまでは年が離れてしまうけど。


忍足さんが生まれてきた大切な記念日を、心から祝おう。



「おめでとう、忍足さん」



大好きな大好きなあなたへ、甘い幸せを。




END
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H20/10/14*15

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